この記事でわかること
・不眠と不眠症の違い
・睡眠薬の種類
・適切な使い方
不眠症とは
不眠とは、文字通り眠れないことです。
不眠は、何らかの理由で突然生じる可能性があります。
例えば、カフェイン含有量の多い飲み物を飲んでしまうとか、深刻な悩みごとがあって頭から離れないとかは不眠となりやすい状況にあるということになります。
しかし、この不眠が続くと日中に精神や身体の不調を自覚して生活の質が低下することになります。
不眠が続くと、不眠症ということになります。
不眠症は、厳密には国際的に認められている診断基準が採用されています。
不眠症の一般的な診断基準は、以下の状況を有していることです。
・不眠の訴え(入眠困難・中途覚醒・早期覚醒・熟眠障害が続くなど)があること
・外的要因の除外(眠る環境や機会が適切であるのに眠れないなど)ができること
・日中の障害(夜間睡眠の障害に関連し、倦怠感や集中力の低下、日中の眠気、やる気の低下など、日中に障害をもたらしている)があること
また、不眠症は、以下の通り分類されます。
1. 短期不眠症(短期不眠障害)
不眠と日中の不調が週に3日以上あり、それが3カ月未満の場合
2. 慢性不眠症(慢性不眠障害)
不眠と日中の不調が週に3日以上あり、それが3カ月以上続く場合
さらに、不眠症は、以下の3つのタイプに分類されます。
・入眠障害(寝つきが悪い)
・中途覚醒(眠りが浅く途中で何度も目が覚める)
・早朝覚醒(早朝に目覚めて二度寝ができない)などの睡眠問題があり、
前述の不眠のタイプは、いずれであっても日中に倦怠感、意欲低下、集中力低下、食欲低下などの不調についながります。
不眠症を引き起こす主な原因としては、ストレス、こころやからだの病気、薬の副作用などさまざまです。
治療は、これらの原因に応じた対処が必要となります。
不眠が続くと不眠恐怖が生じ、緊張や睡眠状態へのこだわりのために、ますます不眠が悪化するという悪循環に陥ります。
どの程度の人が不眠症を持っているのか
日本では、不眠の訴えを持つ人を対象にしたの代表サンプルを対象に、不眠症の有病率と相関関係を調査しました。構造化されたアンケートを使用して、過去1ヶ月間の不眠症の全体的な有病率は21.4%であり、これには睡眠の開始困難(DIS: 8.3%)、睡眠の維持困難(DMS: 15.0%)、早朝覚醒(EMA: 8.0%)が含まれていました(n=3030)。多変量ロジスティック回帰分析では、高齢、無職、運動習慣の欠如、健康状態の自己評価が悪い、心理的ストレス、ストレスに対処できないことが、不眠症の有病率の増加と関連していることが示されました。これらの結果は、日本の一般人口における不眠症の有病率は西洋諸国で報告されているものと比較して同等であり、不眠症は複数の心理社会的要因と関連していることを示しています。
不眠症に使われる薬剤
不眠症に使われる薬剤は、ベンゾジアゾピン系薬、非ベンゾジアゾピン系薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体作動薬に分類されます。
上記薬剤それぞれについて説明します。
分類 | 性質 |
ベンゾジアゾピン系薬 | ベンゾジアゼピン系薬剤は、脳内のGABA*受容体に結合して、GABAの働きを強めることで、催眠や抗不安の効果を発揮します。 具体的には、以下の4つの効果を発揮します。 ・睡眠を促す ・不安を抑える ・筋肉を弛緩させる ・けいれんを抑える ベンゾジアゼピン系薬剤は、作用時間や強さの異なる多くの種類があります。 その中には、睡眠を促す作用の強い薬剤もあります。 これらの薬剤は、睡眠導入薬として不眠症の治療に用いられます。 ただし、副作用として、ふらつき、眠気の持ち越し、健忘などが出ることがあります。 長期連用すると、効果が弱くなるだけでなく、依存も生じやすくなるため注意が必要です。 なお、ベンゾジアゼピン系薬剤は、作用時間によって、超短時間型、短時間型、中間作用型、長時間型に分類されます。 |
非ベンゾジアゾピン系薬 | 非ベンゾジアゼピン系薬は、脳のベンゾジアゼピン受容体に作用して、脳の活動や興奮を抑制し、眠気を誘発する睡眠薬です。 このカテゴリーに分類される薬剤は、ベンゾジアゼピン骨格を持たないにもかかわらず、同様の効果を発揮します。 ベンゾジアゼピン系睡眠薬と比較すると、非ベンゾジアゼピン系薬は筋弛緩作用が比較的弱く、ふらつきなどの副作用のリスクおよび依存性が低減されています。 ベンゾジアゼピン受容体は、主に「ω1」と「ω2」の2つのサブタイプに分かれており、ベンゾジアゼピン系薬剤は両方のサブタイプに影響を与えます。 対照的に、非ベンゾジアゼピン系薬剤は通常「ω1」にのみ作用します。 「ω1」は催眠効果に寄与し、「ω2」は抗不安、抗けいれん、筋肉の緊張を和らげる作用にかかわることが知られています。 そのため、非ベンゾジアゼピン系薬は主に催眠効果をもたらすシンプルな睡眠薬として機能します。 非ベンゾジアゼピン系薬の利点には、深い睡眠を促進し、依存性が低いことが挙げられます。 ただし、効果の速さや強さにおいて、ベンゾジアゼピン系薬に比べてやや劣ることがあります。 |
メラトニン受容体作動薬 | メラトニン受容体作動薬は、体内で自然に生成されるホルモンであるメラトニンに類似した構造を持つ薬剤です。 通常、メラトニンは夜間に多く分泌され、体温を下げたり体内時計を同調させることなどにより、脳と体を睡眠に誘導する役割を果たします。 メラトニン受容体作動薬は、メラトニンが作用するメラトニン受容体(MT1受容体やMT2受容体)に作用します。 これらの受容体を刺激することで、自然に近い生理的な睡眠を誘導し、睡眠障害(不眠症における入眠困難など)の改善効果を発揮します。 メラトニン受容体作動薬の特徴として、効果が緩やかで副作用が発生しにくいことが挙げられます。 そのため、一時的に寝つきが悪い方や、初期の睡眠障害を持つ方の治療に広く利用されています。 ただし、即効性は低いため、効果を感じるまでには時間がかかることがあります。 |
オレキシン受容体作動薬 | 脳内で覚醒を維持する神経伝達物質として、オキシレンがあります。 オレキシンは覚醒状態を維持し、適切な時間に眠気を感じるのを助ける重要な役割を果たしています。 オキシレン受容体拮抗薬の有効成分が、オキシレン受容体1型(OX1受容体)、2型(OX2受容体)に競合して阻害することで、覚醒状態を抑えて、睡眠を促す作用があります。 オキシレン受容体拮抗薬は、覚醒と睡眠のバランスを「睡眠」に傾け自然に近い眠りに導きます。オキシレチンがオキシレチン受容体に結合することを阻害し、覚醒を抑えるのです。 また、オキシレン受容体拮抗薬はベンゾジアゼピン受容体作動性の睡眠薬と比較して依存性(リバウンドや半跳性不眠)や副作用が少ないことも特徴です。 |
GABAとベンゾジアゼピンの関係
脳の中では、多くの情報の受け渡しが行われています。
この情報の受け渡しは、神経伝達物質を介して行われます。
GABAは、脳や脊髄などの中枢神経に多く存在するアミノ酸の一種で、その神経伝達物質の1つであり、睡眠に関与しています。
神経伝達物質には、脳の神経細胞の活動を抑制したり興奮を鎮めたりするものと、活動を活発にしたり興奮を高めたりするものがあります。
GABAは、脳の神経細胞の活動を抑制し、ドーパミンなどの興奮系の神経伝達物質の過剰分泌も抑えることで、リラックスさせる作用を担っています。
なお、GABAは、脳をリラックスさせる神経伝達物質としては、脳内で最も量の多い物質になります。
GABAが結合するGABA受容体にはA,B,Cの3つのサブタイプが存在しています。
サブタイプとは、よく似た機能と構造を持つ一群のタンパク質群のことを指しています。
つまり、受容体サブタイプは、同じファミリーというグループに属していて、それぞれ異なる特性や働きを持つ受容体のことです。
睡眠を促す、不安を抑える、筋肉を弛緩させる、けいれんを抑えるなどの生理機能に関与するのはGABAA受容体です。
簡単に言うと、ベンゾジアゼピン系薬が作用するベンゾジアゼピン受容体は、GABAA受容体の上にあります。
ベンゾジアゼピン系薬はベンゾジアゼピン受容体を介して、GABAとGABAA受容体の結合力を強め、GABA作動性神経の機能を高めることになります。
具体的には、ベンゾジアゼピン受容体に薬剤が結合して受容体が活性化すると、その影響でGABAA受容体の作用も強まる仕組みです。
すなわち、ベンゾジアゼピン系薬剤は間接的にGABAの働きを強め、脳をリラックスさせる効果を発揮します。
分類 | 一般名 | 代表的な製品名 |
超短時間作用型 | トリアゾラム | ハルシオン |
ゾルピデム酒石酸塩 | マイスリー | |
ゾピクロン | アモバン | |
エスゾピクロン | ルネスタ | |
短時間型作用型 | エチゾラム | デパス |
ブロチゾラム | レンドルミン | |
リルマザホン | リスミー | |
ロルメタゼパム | エバミール、ロラメット | |
中間型作用型 | フルニトラゼパム | サイレース |
エスタゾラム | ユーロジン | |
ロルメタゼパム | エバミール | |
長時間作用型 | クアゼパム | ドラール |
ハロキサゾラム | ソメリン | |
フルラゼパム | ダルメート | |
メラトニン受容体作動薬 | ラメルテオン | ロゼレム |
オキシレン受容体拮抗薬 | スボレキサント | ベルソムラ |
レンボレキサント | デエビゴ |
まとめ
不眠治療において、さまざまな薬剤が開発されていました。
以前に比べ、治療に対する選択肢が増えたわけですが、薬剤選択には適切な診断と処方が必要です。
また、治療を受け、投薬されたあとでも、体調変化に気をつけ、体調変化があった場合医師など医療関係者に自身の状況を伝えるようにしましょう。
これにより、副作用や依存性のリスクに注意する必要があります。
参考文献等
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html
https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/phn/sleep_guideline.pdf
Sleep. 2000 Feb 1;23(1):41-7.
タイトル写真提供|Ben Blennerhassett/Unsplash
文章内写真提供|Megan te Boekhorst/Unsplash